「独裁者」との交渉術 (集英社新書 525A) | |
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明石康さんというと、カンボジアPKOのあと、ユーゴを巡るPKOであまりいい結果を残せなかったな。という最初の印象のあと、ユーゴ問題を結構目にするときがあって「これはどう転んでも無理じゃね?」という認識だったんですが、そういう世界各地で国連より派遣されたり日本の要請を受けて紛争地域の調停作業に赴いた氏に対するインタビューを纏めたのがこの本。
だから、「独裁者との交渉術」というよりは、「紛争指導者たちとの交渉記録」として読むのがいいかもしれません。インタビュアーが旧ユーゴのサッカー記事では多く文章を書かれている木村元彦氏ということもあって、結構ユーゴに多くページを割かれているかな。
交渉というのは自分たちの意見を強行に押し付けあうことではなくて、言い分を聞いたうえで国際社会がどういう風に当事者を見ているかを理解させ、しかるのちに落としどころを探る...というわけで、ゼロサムではなく互いが承認できるところまで落とし込む作業だったりするわけです。
なので、交渉術そのものについては、自分が以前読んでいたNYPDのネゴシェーターが書いたものと似ていたかな、という印象ですね。「術」っていうのもどうも疑問符がつくところで、どうも「スキル」と勘違いしてしまいがちだけど、明石氏のインタビューでは「スキル」ではなくて「アート」、交渉の志向みたいな形を受けましたね。なので、答えありきではない(無論、最終目的はありますが)、互いにとって最善と思われる形を模索するわけです。
ただ、犯罪対策のネゴシェーションとは違って、国際紛争ではあまりにも不確定要因が多すぎるし、経緯もややこしい。各国の思惑やマスコミのレッテル貼りもあるし、中々上手く行かないこともインタビューでは明らかにされていますね。
無論、明石氏本人は当時の決断についてアレコレと言い訳がましいことは言いません。あの当時の状況と判断について説明したあと、その結果上手く行かなかったことについても自分の分析を述べている。
物事は単純に黒白で決着がつくわけではないですが、どうしても人はわかりやすい方向へ流れていくなかで、何がベストか、ということを考えるに重要な示唆にとむ本だと思います。
あっと、その前に、カンボジア、ユーゴ関係はネットで色々と調べておいてから読んだほうがいいかもしれませんね。本では必要な予備知識についてあまり触れられていませんから。せめて、発端と経緯だけでも冒頭で書いておいてほしいものでしたけど。(巻末にまとめられていますがね)
NYPD No.1ネゴシエーター最強の交渉術
Dominick J. Misino
武装解除 -紛争屋が見た世界 (講談社現代新書)