2017年12月2日土曜日

軍人が政治家になってはいけない本当の理由 政軍関係を考える

政軍関係(civil-military relations)、この英語直訳調の言葉、御存じですか?
自分は曖昧でしか抑えていなかったので、興味がありこの本を購入(電子書籍)。
政軍関係についてはwikipediaの記述がいいですかね。

政府指導者と軍指導者との関係性、と言えば解りやすいのでしょうか。著者は元自衛隊幹部。東日本大震災における当時の民主党政権下と自衛隊トップとのやり取りでこの関係性について疑問を抱き、自衛隊がその手本としている米国、そして英国での政軍関係を調べはじめたそうです。その結果がこの新書です。安全保障関係、あるいは現代の軍事指導者(将官)は以下に政治と向き合うべきか(その逆もまたしかり)興味のある方は必見です。

日本でも東日本大震災以前にもこの形、政府と自衛隊の関係でいささかギクシャクしているケースがあります。たとえば自衛隊トップの発言による更迭問題、あるいはPKO日報問題などなど。それはどうして生じるのか。著者は、自衛隊が憲法によって定められていない不安定なものであることが一つ、次に旧軍の影響をいまだに引きずっているかの如き政治家の自衛隊感の問題、最後に防衛省改革が行われても未だに残る文官側による強烈な武官サイドに対する統制、文官統制を指摘した上で、総理大臣や防衛大臣と自衛隊指揮官たちの個人的信頼感が無いことを指摘する。

政治家に求められるものは、軍将官らに対して政治・戦略目標を提示し、それについての方策を軍将官に求める。軍将官はその目標についてのオプションを提示するだけでなく、問題があれば指摘し、実行時の問題もただちに報告する。そのためには内閣の最高意思決定の場には立ち会わせなければならない。これがあるべき姿なのですが、中々上手くいかないことが日本、米国、英国の例で明かされていきます。

日本で起きた政軍関係トラブルについての筆者の評価はまさしく然りで、福島第一原発に伴う当時の防衛大臣の発言の違和感、航空自衛隊トップから妙なレポートで退職することになった人物についての評価(異例の人事コースで、現場での指揮統率の経験不足のみならず海外留学などもせずにトップに上り詰めたとは初めて知りました)、スーダンPKO日報問題など、端的に何が問題であるかを説明しています。

で、じゃあ日本は相変わらずgdgdなんだけど米国はどうよ…と思ったらこちらも実はここ最近は問題含みだということがわかります。政治と軍将官が結びすぎているのではないかという筆者の指摘があります。退役将官といえども政治問題に対しては中立であるべきであり、大統領選で応援したりしていますしね。あと個人的に衝撃だったのは、湾岸戦争時の統合参謀本部議長であるコリン・パウエル氏についての評価です。氏の指導あってこそと自分は考えていたのですが、筆者は過度の政治的判断(湾岸戦争地上戦後半、クウェート領内からイラクへの撤退するイラク軍に対しての攻撃が行われた結果、多数の破壊車両が続く"死のハイウェイ"とよばれる状態となり、これが報じられれば国内の厭戦気分が高まると判断した氏による停戦提案がそれだといいます)、それにより湾岸戦争の大目標であるイラク問題が中途半端になってしまい、今日の混乱の起因でないか。これは後世の再評価をまつ必要があると指摘します。

とまぁ、かくして色々な将官の名前が飛び交う本ではありますが、理想的な政軍関係とはいかにあるべきか、軍隊(総じて自衛隊)が必要なものは何かなど色々と示唆に富んでいます。やはり、人材教育は大変ですねぇ。

最後に印象ぶかかった言葉を引用しようかな、と。

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文民統制は、軍事組織が、軍事的に意味がない決定に盲目的に従う時、最も高い水準となると警鐘を鳴らしている。
モーリス・ジャノビッツ(一九一九~八八年)

軍人が政治家になってはいけない本当の理由 政軍関係を考える (文春新書)