2009年10月20日火曜日

それぞれの変化に。「迷宮街クロニクル3 夜明け前に闇深く」 

迷宮街クロニクル3 夜明け前に闇深く (GA文庫)
迷宮街クロニクル3 夜明け前に闇深く (GA文庫)津雪

ソフトバンククリエイティブ 2009-10-15
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迷宮街も新年を向かえ、新たな動きがはじまった。
ほとんどのチームが第1~2層でとどまり、極々僅かなトップチームのみが4層へと踏み込んでいるが、それより先に進むことが難しい現状の閉塞感を打破する画期的な方法が新たな企業側代表の後藤によって明らかにされる。
そのアイデアに迷宮街トップチームのメンバー達は色めきたつが、アイデア導入による変化はトップグループ以外の「その他大勢」の探索者たちにも複雑な感情を持たせることに...。

一方、着実に経験値を積んだ真壁たちのチームは各々変化が顕著になってきていた。
それは良い意味でも悪い意味でも迷宮街の空気に触れたことで訪れたことで現れたズレのようなものだった。そしてその余波は遠く離れた場所にいるはずの者にまで及ぶことになる...。

そんな中、探索者たちの新たな試みが行われるのだが...。

というわけで、3巻完結と思っていたら分冊されて4巻になったそうです。なに、完結編で上中下とか過去にもあったわけですから気にせず物語を書ききってもらいたいものですが。

しかし真壁、不憫な奴め...とか思うわけですよ。
この3巻で特徴的なのは、第2期エースの一人と目されながらも、周囲の才能が突出しているため劣るというか、すごさが見られないと周囲に見られているであろう彼の才能について様々な人達から様々な見方、解釈、評価がなされているわけですよ。
迷宮の中でも、外でも、その特異な才能を称えられる一方の報われなさってのが明らかになってきて、すっかり主人公だけど主人公らしくないポジションですね、今回。
彼はナチュラルに分析・対応・決断を下すタイプですから、物語中でも言われるように天然のごとくついていくタイプでないと相手は難しいでしょう。実際彼は無意識的に他者に犠牲を払わせていて、今回の話はそのツケというか反動が現れるわけなのですが。

1巻が物語の導入、2巻が迷宮街に住む人々のどこか豪快な生き様など、彼を視点にすえて語った物語だったとすれば、3巻は周囲からみた真壁の姿、というわけで、ちょっと趣が違うような形です。その分影が薄いかなぁ。
とりあえず確定的な悲劇も待ち受けているようだしね。

(この小説は群像を描くことで物語が描かれていますが、特徴的なのは真壁の心情の大半は、自らが書いたblogでの日記でしか描かれていないという点です。つまり真壁の心情は読者に明示的には伺いしれなくて...それでも今回は数シーンのみ彼の心情が記述されているくだりがありますが...彼の「得体の無さ」をはっきりさせているかのようにも見えます。)

それと同じくして一方では迷宮街の複数のプロジェクトは色々な形でスタートして変化を見せるわけで、ネタバレしないように書くと、あの人がこういう形であっさりと退場するってのはちょっと「ええぇっ」だったけど、それはそれでしょうがないかなぁというか。
登場人物の中で実は過不足無く周囲と関係性があって、ほんと貴重な立ち位置だったんだけど、その立ち位置が故に退場してしまうとなるとまるで芯を欠いたような展開にならないかとひやひやです。

また迷宮街の謎と「人類の剣」制度がもたらす、既得権益の永続化という人間のダークサイドの一面もちらりと覗かせたり...その皮肉っぷりに笑ったのは、「人類の剣」が継続させるための「人類の剣」達の思惑だったりするわけです。月10万の支援金?が出るが後継者を育てることが条件で、できない場合は何割か返還ということを考えて、後継者を探してみたり、永続化させるために考えてみたり。
あと「人類の剣」って宮内庁管轄なんだ、ふーん、名称の由来が英語の直訳からきている?みたいなくだりもあったから、明治のあたりに導入されたんでしょうねぇ。

伝聞情報ですがWeb版のような展開だとすれば、おそらく真壁以下冒険者たちに大トラブルが待ちかまえているだろうということは判るし、もう、なんていうか真壁、そんなフラグ立てちゃだめだーwという最後の下りなのもあります。どうなるんでしょうか。
早く続きが読みたい物語の一つですよ。

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