魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
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※小説本編は「目次」のページから。
ペトロニウスさん、izuminoさんなど、あちこちで評判だったので読んでみた。
長い、長いよ、本当にびっくりするぐらいのボリューム。ライトノベル4、5冊分かな? しかし面白いので三日間かけて延々と読むことに。プリントアウトするか、データだけを落としてPDAとかで読んだほうがいいかも。
描写なんてほとんどなく、セリフだけで進むし、登場人物の固有名詞は肩書き「勇者」「魔王」「メイド長」みたいなシナリオっぽい形で進むので最初は面くらうかもしれないけれど、慣れればその世界観に引きずり込まれるだろうなぁ。第1話だけでも読んでください。そうすればぐいぐい引き込まれるはずです。
RPG的中世の世界観から一気に近代まで進化していくようなスピード感。その中で語られる、「あの丘の向こう側へ」の物語。しかも物語はふつうならクライマックスの終わり、そのシーンからスタートするわけで。まずこれに驚いて、次にその物語の展開に驚くことに。
魔王により知識がもたらされる一方、それによって思考、思想が変化、あるいは新たに生まれて、そして様々な形で伝播していく。もう一方の特異点、勇者ももっとも強く影響を受けて変化していく。
いや、それだけではなく魔王や勇者のもとに集った仲間や弟子たちも、その周辺にいるものたちも影響を受けて変化していく。そしてその変化は、彼らだけではなく魔王や勇者自身にも影響を及ぼす。まるで波紋のように広がっていく変化の波。そうして繰り広げられていく、紡がれていく未来への物語...。
馬鈴薯、玉蜀黍、羅針盤、最初はちょっとしたハードウェア的アイテムがもたらされることにより、次の効果がさまざまにあらわれていくのです。一つは生活環境。そして次には政治体制。商業活動。既存宗教とその影響を乗り越えていく思想など、様々なのもが変化し、現れていく様は中世から近世までの流れの縮図みたいなもので、作者はどれだけのバックボーンと構想をもってこの物語にとりかかったんだろうか。
色々語りたいことはたくさんあります。
まず登場人物の一人、「狼と香辛料」的中世~近世世界のような物語世界での経済活動を一人で進化させてしまう青年商人。そしてその青年商人とあの姫とのやり取りが大好きですね。
また登場人物の一人、メイド姉がね、なんの力もない、ただの一人の少女の変化が物語の中での最大の変化なんじゃないかと思います。なんの力も実績もない、ただ魔王と勇者たちに出合っただけの身分卑しい立場に置かれていただけの少女が、専門の教育を受けてるわけでもないただの少女が、周囲からの影響を受けて、自らの立場と世界を見据えていく。
そして物語の中盤、魔女狩りのような弾劾に晒される中、搾り出すような、祈りにも、願いにも、叫びにもにた言葉で、皆に語りだすシーンで思わずじわりときましたよ。そう、何も持たない少女が迷いの中で掴み取った啓蒙思想なわけです。そしてなによりビックリしたのは、その後の変化。もう一人の「・・・」になっていくなんて読みながら物語のダイナミックさに震えました。
ネタバレはしたくないけど、この物語のダイナミズムを語るには若干...書いています。しかしここで書いているのはほんの少しであって、その他にも様々なものがあるのです。
いろいろな意味で面白かった。読了後、あまりのクライマックスからの見事な終わり方に身震いしました。本当にすばらしい物語です。歴史が好きな人、世界を動かす物語が好きな人なら読んでみるのがおすすめかな。
これ、ゼロ年代とかセカイ系とかなら「世界なんてしったことか」で終わってしまうこともできる物語なのにそんなことにはならない。なぜなら、この物語の主要登場人物の誰もかれもが「自分」「他者」「世界」をちゃんと見据えてるんですよね。歴史の転換時期にさまざまな形で流れる犠牲をしぶしぶと認めながらも、なお、(各々の立場、利害によってたって)その影響をできるかぎり少なくとどめよう、良き方向へ向けていこうと足掻いていく物語でもあるわけです。
実際の歴史とは違って、思想も行為もブレはないから反動もない。ちょっと抽象化されたきらいもあるかもしれないけれど、この「あの丘の向こう側」にある「現在」「今」がどうしてあるのかっていうのもつながるようなお話でもある。そして目指すべき場所は確かにあるのだ、ということも。
しかしこんな出会いがネットにあるなんてびっくりしましたよ。
おすすめ作品の紹介でした。いやー、いい物語を読み終わったあとの充実感って本当に格別です。
「その先の物語。」 from 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために
「人生を変えることのできる物語/魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」」 form ピアノ・ファィア
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