今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書) | |
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今年の自分の目標の一つに「ハンナ・アーレント(1906~1975)の著作を一つでもいいから読む」というのがあって、その羅針盤、とっかかりとして新書を選んでまずはどんなものかを知ろうと思ったら、なんとまぁ、これが面白そうで!
最近の書評系界隈で盛り上がっている「まおゆう」、魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」でも盛んに語られている、善悪二元論の向こう側にある物語というのと、やけにシンクロしている話で面白かったですね。
善悪にかかわらず二元論というのが非常にわかりやすい、ある種どうして導かれるのか。という側面について書いている。その一方で、彼女が理想としていたアメリカ革命と、フランス革命の違いや、多種多様性の許容などなど筆者がアーレントについて語りながらその全容をできるかぎり実際のケースを踏まえて説明しているわけで読んでてなるほど、と思ってもみたり。
もっともアーレント自身の著作を読んだわけではありませんので、筆者の解説を元に簡単に自分自身のメモとして以下の文章を書いてみたり。
全体主義を呼ぶもの。
アーレントが生きた時代は全体主義、共産主義が猛威を振るった時代でもあり、本人がユダヤ人というルーツもあってか、その点についていろいろと著作を残している。
彼女の説によると、全体主義を生み出したのは近代における「国民国家」であるという。国民国家とは、文化的コミュニティのアイデンティティを確立しはじめてから成立するものである。たとえばナポレオン時代のフランス、そしてその影響を受けたプロシアのケース。しかしフランスがフランス革命において周辺諸国の外圧を元に国民意識を芽生えたように、プロシアがフランスにより占領されてから統一国家=ドイツを成立させたように、外敵が必要になるという点ではかわらない。
つまるところ自らのアイデンティティを成立させるためには何かしか対立要因が必要になるというわけだ。実際には近代にいたるとその影響力を失いはじめたユダヤ人がこうして敵対要因として浮かび上がってきた...というのは結論だがことは簡単にはいかない。国民国家が成立することによって資本主義社会が始まり、次には資本主義社会の根源である拡張志向が帝国主義となって形らあらわす。ここでもアイデンティを求める対立が必要となり次は内向きの対立要因が発生する。つまるところ植民地との対比によっての確立だ。そこに大衆社会の成立による意識の希薄化がブレンドされる。
国民国家成立直後は国民にも政治に対してコミットメントする意識はあり、法整備が進み、各種権利が成立するのだが、時代を経るにしたがいその意識は希薄になる。結局のところ受動的な立場になる。従来まであって組合などによる組織票(つまりは代理的階級闘争)も成立しなくなっていき、国民一人ひとりも政治にコミットするという意識も希薄になり曖昧模糊とした存在、つまりは大衆になっていく。アーレントはこれを「原子化」と呼ぶそうな。
こうなってくると、一方で国を動かす政党のほうも変化していく。てっとり早く民衆の支持を得るために世界観的な原理原則を持ち出し、世界や社会の本来のあり方、民族の歴史的使命などを口に出す。現世の既得権益では人を結び付けられないので必然とこうなるわけで、あたかも疑似宗教のようなシロモノになる。原子化した国民(市民)はこうしたわかりやすいファンタジーに集まっていく...つまるところ全体主義とは空想社会なのである。空想社会を求める人々にとって現実世界とは「わかりやすい」物語である必要があるため、ここにユダヤ人による資本主義社会の操作とか、なんていうか日本でもありがちな陰謀論がはびこることになる。次に待ち受けるのは人格の喪失である。
ナチスドイツにおいてユダヤ人のホロコーストに加担したアドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴したアーレントは、彼(アイヒマン)が高邁な思想も持ち合わせていない単なる凡庸な人物であったことに愕然としたそうな。彼は確たる主義主張のためではなく、組織内の保身などの目的でもなく、命ぜられたままにホロコーストに加担したというわけで、このことはアーレントをひどく驚かせたという。大衆社会を人間を人間でなくしてしまうのだろうか? ではそもそも人間とはなんなのだろう。人が人たらしめるものとはいったい?
結局のところ、アーレントはこのような事態に陥らないようにするための方法について明確に語ってはいない。アーレントが記述していたのは、古代ギリシァのアテネのように、国民一人ひとりが政治に対して真摯に向き合うことでしかないのだ、という点であり、簡単そうに見えてこれが一番難しい。安直に対立軸を求めるのではなく、その背後にあるものをとらえて考えていかねばならないというわけになる。
...とまぁ、話はまだまだ続くし、個人的には「ははぁ!」「ふーん、そうとらえるのか!?」とかいろいろと面白いくだりがあったのでこの文章は後程、時間があれば拡張していくかも。
というわけで、自分としては非常に面白かった本でした。やはりここはちゃんと読んでみるべきなんだろうなぁ。>ハンナ・アーレント
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