過去を振り払い少年は海を目指す。「変えられるのは未来だけ」という言葉と共に。
と、いうわけで同人誌です。実は何回か取り上げようとして文案を練っていたのですが、イマイチまとまりきらずズルズルと今の今まできていました。もうそろそろ新刊がでそうだし、ここで未完成とはいえ紹介文を書いていこうかと。
「萌えよ!戦車学校 」「セーラー服と重戦車」などを書かれている野上武志氏のサークル「Firstspear」から刊行されているオリジナル海洋物語「蒼海の世紀」です。
物語の紹介ページがありますので、興味のある方は是非。
http://www.firstspear.com/azure-century/
この作品の舞台は明治末期の"もうひとつの"日本。
幕末、坂本竜馬が生き残ったことで日本の幕末から明治の流れは大きく変わり、ハワイ・フィリピンは独立。なんと日本では女性だけで構成される準海軍とも言うべき海援隊が設立され、海上護衛、海外での諜報活動などに携わっていた。
主人公は朝鮮王家の出自を持つ李家鳴海(りのいえ なるみ)。ただし、その出自が故に日本での居場所はドコにもなかった。子供心に地の果てまで駆けてみるが、待っていたのは海辺。ドコにも居場所がないのかと諦めかけた少年と出会う美しい女性。彼女が別れぎわこういい残す。「海は世界中とつながっている」と。
時代は過ぎ、少年は青年となり海軍兵学校に入学。しかしここにも居場所はなく、彼は心に鎧をまとって、偽りの笑みまで浮かべるようになっていた。そんな李家を含む若手士官候補兵たちに近海航海訓練として海援隊の艦「みかさ」へ赴くよう命令が下された。
時代は1912年。世界を混沌(WW1)が覆いつくすほんの僅か手前。
さぁ、物語の幕が上がる。海洋を舞台に青年の成長と日本の明日を描く物語が。
とまぁ、物語の冒頭を要約したんですけど、現段階で10冊刊行です。総集編3巻まで出てますからそちらを購入されてから続きを追いかけることをお勧めしますね。
もうね、物語のバックボーンを読むだけでは「イロモノ?」と思うような設定なんですよ。
まぁ何しろ女性だらけの海軍組織。どんな海軍よ。とか思わないわけでもないですが(そっち方面のネタも多分に物語に盛り込まされていますしね)、ただ、女性だけの海軍という設定のために日本の近代史のアチコチに手を入れている。つまりこの作品では近代史再構築を行っているわけです。と同時平行に、ビルドゥングスものとして重要な「主人公のアイデンティティの確立」も打ち出されているわけですよ。
最近滅多にない少年(青年)の成長譚ですよ。
それも舞台は近代日本(明治末期から大正)という日本に残されたファンタジーとリアルの瀬戸際である特定時期。
司馬遼太郎が夢見た「夢のような(ファンタジー)」時代である日露戦争終結までの明治。不幸な現実(リアル)の始まりである昭和以降。その狭間にある暗黒期のように思われている明治末期から大正時代を舞台に、しかも海洋を舞台にするという稀有な物語なわけです。
扱う時代も日本の海外進出期という点と主人公の出自の設定もあって、商業出版はきっとどう頑張っても無理でしょう。けれども日本には同人フィールドがあるため、作者たちの縦横無尽な書き方が許されるのです。いや、最近色々ありますけど、日本でよかったよね。
主人公の李家は出自のために日本人から蔑まされ、海外に出れば黄色人種と蔑まされる。自己の居場所すらない。しかし、そのことをいくら疎んじても逃れる術はない。相方でもある鈴木少尉にそのことを教えられ、彼は自分の足で立つわけです。
そしてそんな彼を取り巻く乗組員たち。彼にきっかけを与え、よき相棒(パートナー)となり、女房役ともなりつつある鈴木穂積中尉。彼を導く「みかさ」艦長以下、水兵・士官といった乗組員たち。そして彼を背後で見つめる海援隊元帥のあの方。
水兵たちの信頼を勝ち得て、兄貴(姉貴)役から海軍の本質・士官の本分のなんたるかを教えられ、そして最新刊では海援隊元帥から「海の男」となるべく冒険の旅へと送り出される。
待ち構えるのは過酷な自然と世界のある一つの現実。そして迎えるのは多分、(出るだろうと思っていた)ドイツの海の悪魔こと海鷲(ゼーアドラー)号艦長、フェリクス・フォン・ルックナー伯爵だろうなぁきっと!
最後の騎士道精神を持ちえた伝説の海の男の影もちらつく中、旅の途中で座礁した李家たちの前に現れる過去の亡霊などなど、いやね、盛り上がること請け合いです。
というわけで未読の方は是非に。とかいておきます。
購入は「とらのあな」などの同人誌通販サービスを行っていますのでそこから購入されることをお勧めします。
※っていうか、いい加減絶版のままのフジ出版「海の鷲 ゼーアドラー号の冒険」をどこかで再刊してくれませんかねぇ。プレミア付きすぎです。
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