女子アナ・吏良の海上自衛隊メンタルヘルス奮闘記 | |
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帯になかなかショッキングなあおり文句が現職の海自地方総監の手によって書かれているので興味をもって読んだら、筆者の軽妙な語り口でぐいぐいと読ませてもらった。
海上自衛隊が日本人組織である以上、日本社会の問題の縮図も垣間見える。
待遇面では良好とは言えるが、任務は増える一方の海上自衛隊は、若手隊員のライフスタイルの変化もあり、かなり組織内圧力が強くなっている。ここでいう組織内圧力というのは、まぁ、いうなればブラック企業の根は一緒。言いたいこともいえないでストレスだけが負のサイクルのようにかさんでいく。
海上自衛隊はその祖である海軍からの伝統からか「Silent Navy」を尊ぶし、外から見れば精強さを求められるが、彼らも人間であり、長引く任務。航海に入ればストレスは増加。人員減少に伴う勤務内容増加。それを遠因として事故などが発生したときのマスメディアのバッシングなどの問題...なにより、自殺問題。それは当人だけではなく所属部隊の隊員にも影響を及ぼす。
そんな場合に「うつ」やPTSDなどを起こさぬようメンタルヘルス担当の隊員が飛んでいきヒアリングなどを行ったり、事前にこんなことがないように組織内で相談できるような状況にしようとする筆者たちのお話し。
組織的疲労はありありと見えていたけれど、海上自衛隊自ら「自殺者及び事故の増加」を認めて、これに対応するためのメンタルヘルス担当を導入して、なおかつそのメンタルヘルス担当者の手による(歯にモノ着せぬ)体験談が本になるなんてなー。
筆者はNHK女子アナ→臨 床心理士資格取得→海上自衛隊員(30歳)という珍しい経歴の持ち主。
本人の資質も多分あるのだろうけれど、上手く海上自衛隊になじんでいるというか、こういう異分子を取り込まないと組織が閉塞してしまうことをあとがきで地方総監も書いているのだから、まぁなんていうか器が大きいというか。
「潮っ気」の足りない筆者に海上自衛隊が何たるかを教えるため、あちこちの部隊を見学させたり、逆に若手女性隊員と総監が一緒に卓を囲んで食事したりとまぁ海自もなんというか・・・がんばっているのね。
自殺者が発生した部隊へ行き、話しを聞いて不平不満や問題を聞く。その上で必要であれば上官に報告して対応する。「仕事が忙しい中自殺者が出てその任務も肩代わりにして病院へも行く暇がない」というブラック企業もかくやという状況を、筆者は部隊上官につげ、上官命令という形へ病院へ行かせる。また、自殺者や「うつ」を煩わないよう先任海曹へと相談できるように先任海曹らへのヒアリング方法のレクチャーを行うなどなど様々な対応がつづられています。
(陸自だとイラク派遣後、どこか場所は明示してなかったけど一度社会から隔離して高ストレス状態からゆっくりと解放させたあと、日本に帰還させてましたね。海上自衛隊は、船という密空間内での勤務が続くから、どこか慰安ポイントを海外に作るのも手かなとは思うのですがね)
海上自衛隊が「あたご」事件を契機に行いつつある組織内改善がどこまで進むのか。筆者のような異分子を取り込んでメンタルヘルスの取り組みをこういう形で公開できるタフネスさは本物なのか。もし本物としてぞこまで行けるのか。
「海上自衛隊」というカテゴリーだけで捕らえて論評をするのではなく、こういう取り組みをもっと知ることも大事なんじゃないかな。過酷な任務につかせている国民の一人としては。というのが率直な感想でしたね。海自に興味がある方は一読することをお勧めいたします。
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