2007年9月3日月曜日

九月病 / シギサワ カヤ

九月病 上 (1) (ジェッツコミックス)
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子供の頃、兄を思うばかりにある事件を冒して、それ以来近所でも母親にも「悪い子」としてのレッテルを貼られた真鶴。母親を亡くした年、彼女は兄と肉体関係を結んだ。無論、彼女が望んだことだ。家計を助けるためもあってかバイトをしているが長続きしない。職を転々としているし、援助交際にだって手を出している。

兄の広志も同様。未来を嘱望される出来る銀行員という表の顔。人当たりよく、彼に思いを寄せる女性職員もいる。だが、彼はそれには答えられない。彼のもつ闇も深いからだ。彼は結婚式直前に信じていた相手に逃げられたという痛手を背負っている。なにより(おそらくその時に)自暴自棄に妹と関係したその負い目も背負っている。

そして何より、二人は今も関係を続けている・・・。

というわけで、えらーく救いのない展開から始まるこの物語。元々同人誌で発表されていたものを纏めて単行本二冊にするという豪気な展開で、本屋で見かけて購入。一気に読みましたけど、読んでいる間、確かに物語に引き込まれましたよ。

どんな風にこの物語を分類すればいいんだろう? いささかコメディ風味の恋愛物語。と見るべきか。
いや、この心の闇を覗くような兄妹の物語においては不釣合いな物語でもある。もう読んでて主人公というか兄妹に全然シンクロできない異物のような感覚を味わいながら、次にな何がくるかと構えつつ読んでいましたから。心情は理解できる。さもありなんとは思う。でもまったくもって二人には心を許せることはないだろうとは思いますね。

心がある意味壊れて、激務の仕事に身を任せることで何とかその身を保っている広志は、ある一定の線で、誰かの侵入を阻む。心を支配するのは、身を切り刻むような過去の痛み。
無論、彼を残して去っていた女性にも傷があり、まるで連鎖するように傷は誰かに広がっていく。その傷を受け止めてやるだけの相手もいないままに広志は妹を求め、妹も寄るすべがないまま兄を求めている。

そして、それぞれ二人にきっかけが訪れる。兄にはある電話が。妹にはある事実が。

しかし、この話、途中で登場する広志の同僚である海老沢さんがいなければ、もう救いの無さ大全開で、彼女の戸惑いと逡巡と覚悟と照れがこの物語を最悪の手前で救い上げているんじゃないかな。無論、海老沢さんもちょっと問題アリな人として描かれているけど、広志の心の闇を覗いたときから彼女の物語も急速に展開していくように思えますね。

いや、ああいう頭のいい人は好みですよ!(ここでの頭の良さ、というのは実務能力という意味ではなく…いや、作中、海老沢さんはキャリア志向バリバリかつパワフルな女性銀行員として書かれていますけど)


作者は、以前にも「箱舟の行方」で読んだことのある人なのだけど、こういう男女の絡みを主に女性サイドの視点から、尚且つほとんどの女性がある意味壊れていて、ついでにそれぞれ壊れていることを自覚している登場人物で繰り広げられるなんていう作品を読むのはいささか興味深いことでしたよ。
そうだなー。ジェンダーとして、まったく違う女性サイドから見た仄暗い情念の動きを知る楽しみ(あ、なんか屈折しているぞ)というべきか。男性作家がこの手の作品を書くと(まぁ18禁作品とかでイロイロありますからね)、作品が求められる風土からして、行為そのものとか、ある一面だけを描いているだけのときがありますけど、女性サイドから見るとそうなんだ、なるほどね。という感覚が沸くのです。

行為そのものではなく、行為の周辺(心情)を描くことでその行為を表している、というべきか。

自分が好きな二宮ひかるさんと方向性は似ているから好きなのだと思います。
ちょっと情念サイドが強い物語ではありますけど、嫌いではないです。

この本を読むなら、是非一気に読み上げることをオススメしますね。
というわけで読書記録として。


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