大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫) | |
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堀栄三氏。太平洋戦争中、大本営情報部に勤務。卓越した情報分析能力で、米軍の上陸パターン分析を行い「敵軍戦法早わかり」をまとめる一方、フィリピンの山下第14軍に派遣され、米軍上陸計画を参加兵力・規模・時期まで的中させ「マッカーサー参謀」の異名をとる。大本営にもどった後も米軍の日本上陸作戦についても正確な予測を立てた。
「鉄量に勝るのは鉄量だけ」という名言を残したことでも有名(皇国の守護者のアレはここから引用)。
また台湾沖航空戦の過剰評価(戦果)を伝えた彼の電報は、参謀本部の一部(瀬島龍三氏であると伝えられているが真偽は不明)に握りつぶされ、陸海軍を巻き込んだレイテの戦いを混迷させる一因ともなったという。
...とまぁ、ここまでは知っていて(何で知ったのか、多分書評系サイトとか読んだ気になっていたのか) あれぇ、読んだ記憶がないわけじゃないけど、細かいエピソードが覚えてないなぁ。と思って、本屋で見かけていい機会だからと購入。
ところが上の知っていた記憶は事実だけど、すべてではなく余計に深く、なおかつ本人が当時の状況を実直に書き残しているため、日本陸軍、大本営の情報分析能力の稚拙さや、戦争しているくせに開戦後二年後になってようやく本腰入れて米軍の戦い方の分析に取り掛かるなど、なんというか泥縄以上の無定見や無策ぶりに頭を抱える一方、それでも個々の分析組織(諜報機関)や、堀氏を筆頭にした参謀...というより分析官の奮闘振りなども丁寧に書いており、情報分析とはどうあるか。というのを判りやすく書いている。
なにより、戦史などでよく過去を振り返ったあと、「ここにこういう電文が」とか「報告が上がっていたのに」などという後知恵についても一言述べたあと、筆者が本当に遭遇した「戦場の霧」の中での判断やそれにいたるまでの葛藤をへて、分析を通した上での「勘」を信じるあたりなどはビジネスである程度経験積んだ人には大なり小なり似たような経験はあるだろうと思う。
ただ、堀氏がそんな卓越した分析能力があったのか。とかいうとそうではなくて、この本の中でも書かれているように、数字として挙げられる情報(ソース)を集めてパターンを分析。その中から情報(インフォメーション)を見抜いていくような地道な作業の連続だったりするわけです。
欧州などを経由して手に入るラジオの株価情報を追いかけ、カンヅメ工場の経営する企業の株価の変動で補給物資の供給を知る、米軍地上兵力の再編制サイクルを読み取って来襲時期を判断する、無線情報を積み重ねてB-29の部隊配置と損害状況を知る、などといったこまごまとした積み重ねだったりするわけです。
そういう戦争中、日本陸軍の情報(諜報)に関する捉え方はどうだったのか、などのエピソードを知るにはいい本です。戦記、あるいは日本の近代史に興味のある人には必読といってもいいぐらい。
まぁ、他にも筆者の養父が陸軍航空隊の要職についており、予備役後も空軍発足に尽力。結局は海軍の山本提督に反対?されたあとで流れたくだりや、山下将軍との交流のエピソード、彼らが編纂した「敵軍戦法はやわかり」をいち早く伝え聞いた部隊が、あのペリリューで死闘を繰り広げたあの部隊だったのかとか、フィリピンでの某参謀(ま、辻ですよ、辻!)がやらかした間抜けな行為に後までたたられる話、制空権が取られた状況で参謀を一人送り込むための堀氏らが検討した方法など、終戦間際の国内、国外での某諜報機関の顛末、そして戦後、陸自に再入隊したあとの西ドイツでの武官活動(ある諜報活動などにも触れられて、氏の緻密な数に対するアプローチが面白い)などなど...。
(結局、陸自の内情に幻滅して陸将補まで進んだあと退役してしまうのですが。...でも、陸自の成り立ちを見ていると幻滅する理由もわかるけれど、致し方のない話ではあるのでしょう)
色々「へぇ」と頷くような話も入っていたりと、文庫一冊でよくまとまっていると思います。
願わくば、彼が終戦後纏めたものの、父の一喝の元お蔵入りしてしまった「比島の悲劇」という未発表原稿もいつか読んでみたいのですが...。
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