2009年11月23日月曜日

生涯海軍士官―戦後日本と海上自衛隊

生涯海軍士官―戦後日本と海上自衛隊
生涯海軍士官―戦後日本と海上自衛隊
中央公論新社 2009-04
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元日本海軍士官として太平洋戦争で実戦参加。終戦後、民間企業に転出後、再軍備計画に基づき海上警備隊創設にともない参加。以後、海将として海自幕僚長まで勤めあげ、その見識や実行力などからwikipediaなどでも「海自中興の祖の一人」とも書かれている。
そんな人物の生い立ちから海自での日常、そして防衛力整備などに関わる知見などを、防衛省戦史研究部がオーラルヒストリー(聞き書き)としてまとめたものが出版されたものがこの本。

いや、なんていうか中村提督ご自身については「海の友情」でもその活躍というか精力的な勤務などは知っていたけど、提督ご自身が語る海自勃興期から80年代までの出来事はなんというか、時に脱力感が漂ったり頭が抱えるようなエピソードがあったり、やっぱり海原氏(防衛庁官僚、陸軍出だが非常に偏った防衛思想で、あやうくF-5を導入する破目になるそうになったりと色々評判が悪い御仁)に言いたいことは山ほどあるようだったりとか、歴代防衛庁長官、たとえば中曽根氏以降の...の人物評価など、興味深いエピソードが満載です。

なんていうか、タンカー炎上に伴う海自の撃沈任務にそんな裏事情があったとか、函館のミグ25事件に伴い、提督が手記に「法匪」とか書くぐらい法律的術策をめぐらせる官僚などなど、頭が痛い話も満載で、そういうエピソードが知りたい人は読んでみてそんはないかもしれませんね。

ただ、提督が述べられているように海自がついぞ海軍になることはなかった、あるいは海自の装備が決して満足のいくものにはならなかった(海自が今の自衛艦隊を四個群(艦隊)編成から五群編成としてローテーション勤務させたがっていたけど、それほど切実だったとはこの本を読むまではちょっとしらなかったな)という意見には、まぁ、それはあと20年は待たないとダメじゃないのかなぁ。でも防衛庁から防衛省になったとように、変化するときはあれよあれよという間の気もしますが。

日本の海上防衛力について、どのように中村提督(というか海自中枢)が考えているのか、その変遷というか思考が見れて興味深いですね。日本単独での防衛が望ましいが、それが難しい以上、アメリカとの共同歩調は必要である。ただし、日本の防衛が必要になるということはその条件そのものが破綻していることを指している...という欺瞞的な側面があるわけですが。しかし、色々な意味で難しいご時勢ですが、今の海自トップも中村提督のような先を見通せる人物がついていることを願うばかりです...。


※本文章中、中村悌次元海上自衛隊海将について、最終階級が将官であることから「提督」という言葉を使っています。

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