幾度も攻め込まれたチームは、なんとかセカンドボールを拾って前を向く。相手チームの中盤がプレスを仕掛けようとするが、はずすようにその選手は自分の右背後から駆け寄ってきた選手へパス。そのまま、タッチライン際を駆け上がる。その選手の背後から駆け寄った選手はパスの出し手にワンタッチでリターン。プレスを仕掛けようとした相手選手は完全に背後にボールを出されて反応が遅れる。
リターンされたボールを受けた選手は、ルックアップ。あわてずに低い弾道で一発のサイドチェンジのパスを逆サイドに送り込む。スタジアムの観客がどよめき、TV解説者の元日本代表選手だったFWとドリブラーすら唸る綺麗なパスだった。ジャストの位置で、試合前半からサイドを切りきざんでいた快速ドリブラーの足元へと届いた。
ドリブラーは即座にたくみなステップワークで中央へと切り込んでいく。
そのアクションで、選手たちは得点への最後のピクチャーを共有したかのように猛然と動き出した。
中央へドリブルすることで相手チームのDF達の視線を釘付けにしたそのドリブラーは、チームの特徴でもあるヒールパスでボールを背後へ送る。その背後には中盤から駆け上がってきた司令塔がいた。司令塔は、さらに自分の背後からドリブラーが空けた右サイドのエリアへと駆け上がるボランチへDFの間を通すスルーパスを送る。
ボールをトラップする必要もない、計ったような、これ以上はないというほどの位置へ。ボランチはその司令塔の意図を汲んで、ルックアップ。そこには前線の選手三人が最後のチャンスへ向けてゴールへと突進していた。完全に取り残される相手DFとGKの間を縫うように送り込まれたラスト・スルーパスのボールは、途中交代で入ったスーパーサブのFWの足元へと吸い込まれ、そしてゴールへと突き刺さった。
パーフェクト。
これ以上はない、ワンタッチ、一発サイドチェンジ、ドリブル、スルーパス、そしてゴール前へと突進するFW。ここ数年高校サッカーではなかなかお目にかかれないブラジルかアルゼンチンか、というような綺麗な崩しと意図をもったスキルフルなゴール。
TV中継とはいえ、その鮮やかなゴールシーンにため息がでました。
いや、本当に高校サッカー大会決勝戦、野洲高校のサッカーはすばらしかった。戦前からガチガチのスピード&フィジカルで押し込む鹿児島実業がプチドイツなら、ボール支配(ボールポゼッション)を重要し、個人戦術を重要視する野洲はプチブラジルのような形となるだろう。苦戦は免れないかもといわれていましたが、蓋をあけてみれば、野洲のDFの忠実なチェイス&チェックとクレバーなディフェンスで、終始押され気味だったとはいえ鹿児島実業にゴールを割らせることなく対抗することが出来ました。鹿児島実業の中盤での鬼のようなプレスも、野洲の中盤の選手は、一発で相手選手に触れない位置へとボールを置くトラップや、二軸動作の賜物のような華麗なターンやステップ、そしてドリブルワークとフォローで掻い潜ることに成功していました。一発のロング・フィードも取り入れて、うまいことプレスをはがすことに成功していましたし(前半は、ですが)。いや、お見事。
強いFWをそろえ、ガチガチなロングフィード一発に頼る、そんなサッカーが横行していた高校サッカーにまさしく風穴を開けるようなスタイルをもった野洲高校にサッカーの神様がツキをもたらした。というカンジでした。
高校サッカーを見るたび、高校サッカーを舞台にしたあの作品を思い出します。
我らの流儀 1 (1) | |
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この「我らの流儀」でも、主人公達はパスサッカーを標榜して高校サッカー予選を勝ち進みます。進学校ゆえのトラブル、選手たちの軋轢、主人公の理想や現実への対応。そのどれもが名作です。
※まぁ、大学進学以後の主人公のその後を別作品で知ったときは驚きでしたが(笑)
フィジカルやロング・フィードに頼らない、高い個人技術をベースとした、個人戦術優位なサッカースタイルは、確かに「見た人がもう一度見たくなる」サッカーでした。
来年もまた選手権に出て欲しいものです。
野洲高校サッカー部、選手一同&スタッフ一同、優勝おめでとう。いいサッカーを堪能させていただきました。
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