未来を予測する技術 [ソフトバンク新書] (ソフトバンク新書 46) | |
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数年前、定期的に購読していたあるメールマガジンに頻繁に日本のある施設名が飛び交うことがあった。
「地球シミュレータ」。なんともベタなネーミングとは裏腹に世界最高の演算スピードを生かしたシミュレーション能力を持っていた。
正直、当時の自分としては40.96テラ・プロップスという破格のスペックしか見ていなかったのだが(事実、その後アメリカでは躍起になってこの地球シミュレータの演算速度を塗り替えにかかり、それに成功した)、その施設の責任者である著者が書いたこの本は、前半はシミュレーション=未来予測についてのいままでとこれから。そして後半では「地球シミュレータ」の現実と可能性をわかりやすく説明してくれる。
「地球シミュレータ」の本質とは、シミュレーションする対象、そのすべてを包括してシミュレーションできるという点だ。
つまり、カオティックな振る舞いである気象現象を起こす地球のモデルを内部に構築することで気象変化予測を行う。従来まで、部分的かつ架空的、つまり限定的な舞台でのシミュレーションだったが、この地球シミュレータではさまざまな要素が絡み合い、玉突きし、変換するシステム(時空間)そのものをこみでシミュレーションを行うことができる。マクロとミクロの要素をつなぎ合わせ、さまざまな場面でのシミュレーションを行う。
「それがどうした」という人もいるかもしれない。だが、著者の文章を読めば、「地球シミュレータ」が見せた可能性を伺うことができる。地球シミュレータに必要なパラメータ、アルゴリズムなどの話も興味深い。
そして正直、冒頭にも書いたように、「地球シミュレータ」の意義を「大きな計算機」程度にしか考えておらず、スペックだけにとらわれてそのコンセプトを考えようともしなかった自分に頭を抱えたことも書いておくことにしよう。
蛇足だが、この本においてちょっとココロあたりがあってずきりとしたくだりがあったので、書いておく。
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人間の欲求は本能であり、活力の源泉である。(中略) だがもし、物欲や知識欲が飽和に近づいていくとすれば人間性の喪失にも繋がりかねない問題なるだろう。「人工物」と「情報」の人間生活への浸透は恐るべき速度で進んでいる。
(中略)
そのスピードはあまりに早く、人間が生きる上で重要な、「自ら学び取る」というような「知の喜び」をどんどん減らしているようにも見える。知識の均一化は、知識欲の対象をどんどん狭めていく。このままのスピードで進めば、物あまりと情報の氾濫のダブルパンチで、人間が生きる上でのささやかな目標はどんどん失われていくことにもなりかねない。まさに諸刃の剣といえるだろう。
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本の主題とはいささか離れるが、この文章を読んでずきりとした。確かにそうだ。ココロに思い当たる節はないだろうか。自分にはあった。というわけで、ここに記録しておく。
読了記録として。