2010年11月1日月曜日

コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった

コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった
コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だったマルク・レビンソン 村井 章子

日経BP社 2007-01-18
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ロジスティクスを色々と調べている最中にお勧めだというので読んでみたが、確かにこれは面白い。
この本は、コンテナをめぐるシステムがいかに望まれ、そして生まれ、紆余曲折のうちに生み出した者すら扱いかねる巨大なモノ(システム)になっていったのかということを丹念に描いている。そしてマルコム・マクリーンという一人のアイデアマンの一代記でもある。

物流の革命へ。
第二次世界大戦直後の船便貨物の姿とは、沖合いに止まった船からはしけに荷物を乗せかえるか、岸壁に接岸した貨物船から港湾労働者達がほぼ人力に等しいやり方で荷物を積み替えて陸地の配送場所へと送る方法がもっぱらであり、あまりに無駄と時間とコストが掛かりすぎた。
問題は貨物のサイズが不ぞろいだったことであり、積み込み、積み出しに多くの人手を要した。そしてそれは半ば(比喩でもなく)ギャング化している港湾労働者達の権利要求にもつながり、高コスト状態となってしまっていた。

一方、アメリカの内陸部の物流も、基本的には技術的ハードルではなく官僚的ハードルにより様々な手続きをクリアする必要があるため、実のところ州境を超えるトラック運送ですら面倒ごとが多すぎた。

ここに、マルコム・マクリーンという一人の若手アイデアマンが現れる。
隣町でガソリンを買うといくばくか安いということに気がついたところから端を発した彼のビジネスは、瞬く間にトラック物流業者として名をあげていきトラックの運用台数もうなぎのぼりになっていく。

戦争直後の動員解除に伴い事業を起こす兵役経験者には補助が出るというのを生かして、個人でトラックを購入させ個人事業主とさせ、それを契約するというやり方と、州越えの運送を可能にする手続きの煩雑さを嫌って、許認可持ち既存業者をつぎつぎと買収するやり方、そしてそれを可能にしたキュッシュフローに対する斬新な(つまり借金することをいとわない)捕らえ方と、それを上手く回すためのコスト削減へ注力した彼のやり方は時代にも適合していた。

が、さらなるコスト削減のためには陸地ではなく海上輸送も視野に入れる必要がある。だが、海上輸送は前述の通り、無駄と時間とコストばかりかかる代物だった。そもそも貨物を船に降ろしたり上げたりするのが問題の本質だと気がついた彼は、いっそ船に車を載せてしまえ。というアイデアにたどり着く。これがRo-Ro船の誕生となる。だが、そのアイデアが形になる前に彼はさらなるアイデアをひらめくことになった。そう、トラックに載せる貨物と船に乗せる貨物をそのままワン・パッケージとしてしまえばいい、つまりコンテナの発想である。
ところが、この発想が実現して世界を席巻するにはいささか紆余曲折を要することになる...。

一つには相変わらず様々な難癖をつけてくる官僚組織や公的組織。一つはコンテナ積み下ろしの場所である港の問題、一つは既得権益を大きく損なうため大反対する港湾労働者組合、一つはコンテナを積む船とその設備の問題...。そしてそもそものコンテナのサイズ。こういった問題に様々な人々、会社、団体が絡み、複雑な経緯を経て現在の姿になっていく。

マルコム・マクリーンが素晴らしいのは、物流という大きなシステムの中でその枠組みを替えていったところだろう。コンテナという発想そのものはマルコム・マクリーンが思いつく前からあった。しかし、それを陸上輸送と合体させることまでは思いつかなかった。
 また既存許認可や設備をもつ企業を積極的に買収する。その中でLBO(レバレッジド・バイ・アウト、わかりやすくいうと買収予算を買収予定の会社資産に基づき借り入れするというやり方)をはじめて取り入れたのも彼の手腕だったりする。

 港湾労働者組合との争議解決はいささか皮肉めいた解決方法が繰り広げられ、そのくだりには多くののページが割かれ、より示唆に富んでいる。彼らの多くはコンテナ物流に反対した。結局のところ穏当な方法とは、彼らを尊重しつつも緩やかに退場を促すのが一番賢いやり方だった。最後まで頑強に反対したものたちはその多くはすべてを失っていくだけであった。
なぜならば既得権益を頑強に保持しようとしたところを回避して港を整備すればよいだけの話(海上運送の位置変更によるコストは陸地の輸送路さえ確保できれば、よほどの場合を除き過小なのだから)であり、そのことに彼らが気がついたのは、船も寄り付かず港が寂れていくことを目の当たりにしたときなのだから。

 結局のところ、既得権益持ちの多くはその権益を失っていくことなった。港湾労働者ではなく、それまで荷物の積み下ろしで隆盛を誇っていた多くの港町すらも。そしてコンテナ輸送は大きく国や経済すら変えていくことになる。


軍事と兵站、そして物流の兵站化。
コンテナ物流が軌道に乗り始めたあたりでおきたベトナム戦争がさらにコンテナ物流を後押しすることとなる。
アメリカ軍を悩ませていたのは大量に物資を消費する近代戦にも関わらず貧弱な港湾設備しかないベトナムだった。ましてや効率的な物流を進めようと中央で管理するスタイルをとったのがさらに状況をややこしくさせることになる。貨物が来るたび人手を割いて貧弱な港湾設備で荷卸をせねばならず、船をただ海上にとどめておいて倉庫代わりにまでする有様だった。さすがに状況が酷すぎると当時の司令官も本国側も気がつくが抜本的な解決策がなかった。

 ここでもマルコム・マクリーンが現れて、瞬く間に状況を改善する手を打ち出していく。アメリカ本土から物流拠点の沖縄、そしてフィリピンまでのルートを改善した彼のコンテナ物流は、アメリカ軍も動かして、カムラン湾に一大コンテナ港を作り上げることになる。
 コンテナ物流を効率的に進めるための要点は、1コンテナにつき一つのモノ。出来るがり経由しないでドア・ツー・ドア。ということを理解したアメリカ軍はコンテナ輸送を大規模に取り入れて兵站業務を回していくことになった。
 ここで、マルコム・マクリーンはベトナムから帰る空荷のコンテナ船に目をつけることになった。アメリカ軍の輸送支払いは片道のみで往復分をまかなうので、どこか帰り道に適切な荷物を積む場所があればさらに利益はあがるはず。そしてそこには貿易立国して名乗りを上げつつあった日本があった...。日本の(まだダイナミズムを失っていなかった)官僚、企業はこの動きに瞬く間に乗り、こうして日本の対米輸出はさらに加速していくことになる。

こうした物流活動の極めつけは、トヨタのカンバン(ジャスト・イン・タイム)方式で、軍の兵站活動とほぼ同義な(倉庫を置かない)物流体制により可能になる方式であり、こうして企業内物流も軍隊の兵站活動と同じように総称してロジスティクスと呼ばれることにもなっていく。

勝ち馬総取り。そして勝者のいなくなった戦場。
世界の海運会社がなだれをうってコンテナ物流に取り組む中、港町も同様だった。

組合など既得権益と上手く折り合いをつけ、最新のコンテナ物流に適した設備を導入できたところだけが次の隆盛を手に入れることが出来た。そうではない昔ながらの港町はコンテナ物流により地上輸送のコスト軽減が図れたことにより生産業が港町に隣接する必要性も無くなり、企業すらも離れていき寂れていくことになる。

しかし、その隆盛を誇った港町も長くは続かない。後続の港町がさらに巨大な港を作ればその隆盛は移っていく...。つまるところ、すべては移ろいやすいものだった。

そしてそれは当の海運業者も変わらない。

数多の歴史ある海運業者はコンテナ貨物船導入になだれをうって参入するが、多くは再編の波に飲み込まれた。マルコム・マクリーンも同様だった。多額のキャッシュフローを必要として数々の新機軸、新航路を行うことが出来なくなったとき、彼は自らが築き上げた会社を去り、ライバル会社を購入するが、時勢に合致しないコンテナ貨物船を導入したため破産してしまう。
そう、海運業者の手綱を握るのは、いつしか彼ら本人たちではなく世界を席巻する巨大な消費者と彼らにモノを売りつける荷主になっていた。

コンテナ船が増えれば供給が飽和してダンピングが発生する。ダンピングが互いの手足を食い合う行為と気がついた家運業者は組合を作り、最低価格を決める。が、よりコスト削減に注力する荷主達は組合に参加していない独立船主、あるいは旧ソ連系のコンテナ船で荷物の運搬を行う...。
かくして海運業者に勝者は存在せず、巨大な消費社会を維持するコンテナ物流だけが人知れずモンスターのように動くようになったということだった。

まぁ、通信事業もそうでし、インターネットの事業もそうですし、最近の様々な分野や事業でどんどん「モノが動く(フロー)」に対するコストの軽減が進んでいますよね。ロジスティクスなんて最たるものですけど、日本みたいにAmazonでぽちりとクリックして数日後に手元に届くってことの凄さとかは意外と体感しずらいものです。しかしその背後では365日、日夜を分けず血液のごとくはこぶ存在...物流があり、その上位の概念としてロジスティクスがあるわけです。

この「コストの軽減」。問題なのは実際のコストはそこにあるのに、コストそのものについてが希薄になっているというか。本当に希薄ですむところと、そうでないところがあるというところがこの問題の嫌らしいところです。

まぁ、話を元に戻して、コンテナという箱は元からあった。しかし、それを物流システムへと昇華したマルコム・マクリーンの業績は偉大でしょう。彼が最後破産するというのはいささか物語として皮肉が利きすぎていますが...。

というわけでお勧め本でした。




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