2009年12月31日木曜日

キラー・エリート―極秘諜報部隊ISA

キラー・エリート―極秘諜報部隊ISA (集英社文庫)
キラー・エリート―極秘諜報部隊ISA (集英社文庫)Michael Smith

集英社 2009-11
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star良本だが副読本必須、というか知らないと星2.5くらいにしか......

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あちこちの軍事系書評サイトでは取り上げられているので今更感が強いが、こちらも今更読んだ以上はメモとして書き残しておこうかと。

アメリカの特殊部隊を語る上で決して逃れることの出来ない大失態、イラン・大使館人質救出作戦<イーグル・クロ->の失敗の余波をうけて誕生したISA(アクティビティ)。
彼らの役目は、軍事系特殊部隊に先駆けて現地でのSIGINT、COMINTなどの電子的諜報やHUMINT...人的諜報を行う特殊部隊に特化した情報調査である。
ところが、当のアメリカ軍や政治自身の迷走もあり、ISAは時折その力を見せるものの、大抵は無理解な軍上層部の政治力学などの逆風にあうことも。無論、その間SOCOMといった各軍が保持していた特殊部隊を統括して管理する部門も出来たが、様々な悪癖は変わらなかった。湾岸戦争でも、BHDがあったモガディシュの戦いでも。
状況が一変したのは、あの9.11.事件を受けて、ラムズフェルド国防長官の手によって、ISAの活動を阻害していた様々な要因が取り外されてからのちの話だった。勇躍、ISAやSOCOM、それのみではなく英国のSAS、SBSだけではなく欧州各国の特殊部隊がその状況に合わせて任務につく特殊部隊での戦いが繰り広げられることになった...。

まぁ、なんですか。色々な本でちらちらと覗かせていたアメリカ軍特殊部隊ISAそのものを語る物語だったりするわけですが、(ブラックホーク・ダウンやアンディ・マグナヴのSAS本などなどでちらちらとその存在は浮かんでいましたが)ようやくここでISAの設立から現在に至るまでの通史が明かされたというわけです。
まぁ、正直読んでて思ったのですが、日本も大概だが、アメリカ軍本隊も本当に組織派閥力学が横行する官僚社会ですよね。正規軍系出身の指揮官達からの無理解だけではなく予算問題から何かに至るまで。そしてその特殊部隊の活動を阻害する軍内部、政府機関、諸外国との軋轢などなど。

無論、ISAを語る本ですから、ISAの視点でしか語っていないわけですよね。そんなわけでここで語られている話はほんの一面でしかないことは割り引いてみるべきでしょう。
軍事系特殊部隊は、医療にたとえるなら外科手術でしかも狙い済ました場所へピンポイントでメスを入れる内視鏡手術みたいなものです。正規軍は大きく開腹して治療する手術でしょうか。どちらにしても行き詰ったあげくの外科手術です。それを出来るかぎり行わないようにするのはCIAなどの対外諜報機関だったり...ひいては政治だったり...するわけですが、まぁなんていうか、そりゃ後からやってきて焼畑農業ばりに荒事繰り返すISAなどはCIAから見れば快く思われるわけがないですよね。

アメリカ軍内部にとって一番手痛い問題だったのは、<モガディシュの戦い>の齟齬でしょう。
あれで正規軍が犠牲を払うことを極端に恐れてしまった。しかも正規軍指揮官などからしてみれば特殊部隊らが余計なことをしたばっかりに混沌のソマリアど真ん中で、圧倒的民兵の中に正規部隊兵たちが取り残される破目になった...そりゃ恨みはひどいもんです。
ただ兵士が戦えば犠牲が出るのが当然で、逆説じみた結論ですが、最後は歩兵が自らの血で土地を占有しなければはじまらず、ひいてはそれが犠牲を最小限に食い止める手段でしかないのに、ベトナム以後のアメリカ軍ときたら、ヘリボーンで歩兵を置けばいいとか思っているようなフシがありますよね。あとは政治的思惑で動員兵力や装備を制限したりするわけです。
BHDを見たときにも思いましたが、あのとき、あの戦場上空をガンシップが待機していたら?とか色々思いますよね。まぁ、もっと言えばその前に、ソマリアの混沌とした状況を招く前に国際社会がもう少し足を踏み込めばよかったのですがね。

特殊部隊はなるほど有効な手段ですが、劇薬でもあるわけです。彼らに果たすべき任務を伝え、極力フリーハンドにさせる必要はありますが、最後の手綱は締めておかねばなりません。彼らが暴走しないように、かつ彼らの行動を抑制しないように。一方で正規軍の存在もまだまだ重要です。「最後の一歩」(ラスト・アプローチ)は彼らが行うしかないのですから。

結局、軍が介入する段階でもはや事態は後戻りが出来ない末期状態なわけです。
そのときに必要なのは、犠牲を最小限にするために動員可能な最大限の兵力をもって最小限の期間でことを成す必要があるだろうと自分は考えるわけです。
ベトナム戦争で辛苦を味わった中級指揮官達が湾岸戦争でこれでもかと兵力をかき集めたのにはそれだけの理由があるわけでしてね。
(確か、日本の特殊作戦群を率いた人が退職されてからのインタビューで、日本の上層部も特殊作戦群を最後の切り札に使いたがると苦言を言っていましたが、まったくもってその通りで、必要ならば最初から問題に噛ませるだけの話なだけです。まぁ、おいそれと特殊部隊やありったけの装備を持ち込むのは金が色々かかりますから頭が痛いところですがね)

まぁ、しかしここでISAを物語る話が出てくるということは恐らく背後に、ラムズフェルド以降状況が好転していたISA(アクティヴィティ)達に何らかの阻害要因...恐らく、なんらかの規制が...入ったのでしょうね。出なければ彼らを擁護するこんな話が出てくることはないわけですから。

というわけで読了のメモとして。

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