宇宙の果てまで―すばる大望遠鏡プロジェクト20年の軌跡 小平 桂一 早川書房 2006-05 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ハワイ、マウナケア山頂上に設置された日本の天体望遠鏡、「すばる」。著者がその設立までに悪戦苦闘した記録であり、著者の天文学者の生い立ちも記したものです。
いや、もう、なんですか。あちこちに日本の官僚主義やら国会議員の文教族とか、著者がちょっと言葉を濁して個人名を明かしていないけれど、有力実力者達の横槍や、理解などを経て、予算を勝ち取るまでの紆余曲折、そして予算を得てからの設置までの苦闘など、もう読むと希望はあれど暗澹たる気持ちになります。
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「どうしてわが国で造らないといけないのですか」
「(海外にある天文台を)使わせてもらえばよいのではないですか。お金を払って」
「どうして予算がいるんですか。光が飛んで百五十億近くもかかる宇宙の果てを探るのに、十年や二十年待てないのですか」
「この大望遠鏡は何の役に立つのか」
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文中、著者が投げかけられた質問(著者の答えはこの本を読んでみてください)の数々です。暗澹としますね。
これはある意味低レベルですが、日本の科学技術に関する決定的な視点の違い・・・SF作家の林穣治氏も日記で書かれていましたが、日本での科学技術は産業などの実利のために存在している。と考えられているフシがあるせいなのかもしれません。そのため、基礎的な学問にはあまり興味が向けられることがありません。
つまり本当の科学を理解してないんじゃないか?という疑問にぶち当たるわけです。
佐藤大輔氏風に言うならば、日本人はたとえどれだけ難しかろうと実利があるのであれば興味を得るがその反対であれば簡単であっても無視する・・・みたいなカンジではあります。しかしながらそういう人達の多くは「世界最大級」とか「世界最高」とかいう言葉にてんで弱いのです。軍オタにもあるでしょう、世界最大の戦艦とか、そういうのが・・・。それを達成するためには金と人材と長期的視野が必要なのですが、ついぞ目先のことしか見えていない。そして箱物を造れば満足してしまう。
決定的に頭を抱えたのは、このくだり。実際に天文台を設置したとして、職員が働くのはハワイという異国。トラブル(病気、怪我など)があった場合、補償などどうするべきか。手当ても必要ではないか。・・・ところが、ここですさまじい日本的精神が出るわけです。
「あんなに大きな予算を注ぎ込んで、欲しいという望遠鏡を造ってあげたのだから、先生方は我慢して、辛酸を嘗める覚悟で頑張ってください。まさか手当てが出ないからといって赴任しないわけではないでしょうね」(P352)
結果的には外交官とまではいかないまでもある程度を満たした手当てと補償がつく形となるのですが、それも某有力者の口ぞえがあってから、というものだとのこと。
まー、なんですか。一体全体この国のどうしようもないハードウェア至上主義は一体いつになったら改善するのか、と思いますね。
ハードウェアは陳腐化します。ハードウェアに固執するのではなく、ソフトや運用面を重視すれば、たとえハードウェアが優れていなくても、十二分に活用することができるのです。ところが、日本ではハードウェア(箱物)があれば満足してしまう。本来なら継続的な改良、改善があってしかるべきですが、折角造ったんだから我慢しろ。ということになって必然的に宝の持ち腐れとなる。ああ、ありがちな光景です。
また問題なのは手元のある技術を生かすためには試行錯誤して様々なナレッジを手に入れないと身につかないということを忘れているということです。技術的チャレンジの失敗は次の成功の糧なのですが、とかく無理解な人々は「予算の無駄遣い」などといいますしね。
色々な逆風をものともせず、「(海外に日本の学術施設を設置することを)禁じる法律はない」と信念をもって各方面に尽力された著者らグループのご苦労たるや、本当に大変だったことだと思います。
プロジェクトXっぽい話として読むとちょっと肩透かしかもしれません。しかし、ここには学者があくなき理想を実現するために現実世界で悪戦苦闘した記録があります。著者の文章は読みやすく厚い文庫でしたがすいすい読むことができました。非常にオススメです。
ちなみに著者の小平桂一氏。冒頭に次女の名前でよもやと思いましたが、やはりこの方のお父君でした(w
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