戦う民間船―知られざる勇気と忍耐の記録 大内 建二 光人社 2006-06 売り上げランキング : 30078 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
前から幾度か取り上げていますが、第二次大戦中の日本海軍の商船や海上交通路防衛に関する考え方は非常にお寒いかぎりでした。幾人かは大変な労力をかけてアレコレと手を打っているのですが(有名どころでは海上護衛総隊の大井篤大佐とか)どうしても・・・という点はぬぐえません。
で、この本は大戦中に疲弊していった日本の民間船(商船は輸送につかわれ、マグロ漁船や捕鯨船は策敵哨戒として擂り潰されていきました)の本として著者が幾度か本にしているものの最新版です。前半は日本の話。後半はアメリカ、英国での商船の話となっています。
まー、なんですね、読むと落ち込みますよ。この本。
WW1のイギリス・ガリポリ上陸での戦訓、つまり上陸地点の沖合いに停泊する船からどうやって大量の人員と装備を即座に上陸させるべきか・・・を受けて日本陸軍(海軍はあまり上陸にご執心ではありませんでしたので、必然と陸軍がやる羽目になる時点でダメさというか)がアレコレと考えたのが、大発と呼ばれる上陸艇。この段階までは日本軍も目先が利いていたんですよ! アメリカ軍だって取り入れたぐらいですからね。
と・こ・ろ・が、日本軍に欠けていたのは、その後の問題。つまり、上陸させるためのスピードアップはいいけれど、上陸させてからの装備をどうやって即座に使えるようにするのか(つまり浜辺に降ろした装備をどうやって内陸部に持ち込むか)について、アメリカほどモータリゼーションが進んでいなかったせいか(作者はそう語っていますが、自分はそうではなくて、単純に物事の先を見据える能力が足りてなかった、というか極所の問題にスコープをあてて、それを生かすためにどうすればいいのか。という能力がなかったのだと思います。WW2の日本軍には全般によく言えることなのですが。日本の某メーカーを揶揄するわけではありませんが、「目の付け所"だけが"シャープですね」というべきか)。
結局、ガタルカナル、レイテと、相手の制空権下においてこの問題が露呈して、夜間に輸送船が上陸地点に到着。大発などで兵員を浜辺へ移動。次に輸送船内部に格納している積荷(装備、食料)を荷揚げしようとしているうちに朝日が昇り、アメリカ軍の攻撃機が発見、爆撃、沈没、残されたのは兵員のみ・・・という悪循環の繰り返し。最後はほとんど面子だけで輸送船を送り込んで犠牲を増やすだけですから何をどうすればいいのやら。
「補給戦」を引用するまでもなく、海上交通路を通ってやってきた船から荷物を降ろすためには港湾能力がモノをいいます。そんなものがない場所での上陸、補給のためには、迅速な機動力で送り込むぐらいしか手がないのですが、結局海軍が戦訓を取り入れたのは戦場の趨勢が明らかになった43年前後。どうしようもありませんでしたね。
他にも、策敵哨戒のために捨て駒となって擂り潰されたマグロ漁船の話なぞ、涙なくしては読めません。海軍の遺訓を受け継ぐという海上自衛隊と商船乗組員たちとはあまり折り合いがよくないとか聞いたことがありますが、戦後、戦争に巻き込まれ亡くなった乗組員の扱いがあまりにも泣けてきます。そーいや、靖国神社へ行ったときに戦没した海防艦などの石碑とか観ててもあまり扱いがいいとは思えないんだけど・・・。
そんなわけで、確かに興味深い本ではありますが(戦後、生き残った僅かな商船たちのその後など、中々読めませんからね)、読むとちょっと複雑な気分になります。というわけでメモとして。
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