2006年6月16日金曜日

オペレーショナル・インテリジェンス―意思決定のための作戦情報理論 / 松村 劭

オペレーショナル・インテリジェンス―意思決定のための作戦情報理論オペレーショナル・インテリジェンス―意思決定のための作戦情報理論
松村 劭

日本経済新聞社 2006-02
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「補給戦」で兵站についての本を読んだので、次には「情報」を・・・というわけで、この本を選びました(購入したのはそれより前だったのですが)。

しかし、この本を読んで日本語の訳語に対する難しさを感じたこともありません。筆者は、まず思い浮かべるであろう「情報」という言葉には、意味が二通りあるのだ。ということから始まります。一つはInformation(インフォメーション・・・情報資料)、もう一つはIntelligence(インテリジェンス・・・情報)であり、情報とは情報資料からの抽出、転換されたものだという位置づけなのだ・・・ということを書いています。日本語にすることでかえって意味が曖昧なシロモノになってしまっているケースなのでしょう。

「情報資料」と「情報」は、作中の言葉から引用すれば、ドイツで棺桶を作っているという情報が情報資料であり、それを基に分析をはじめ、担当者のセンスによって導き出される情報が、「ドイツは対外戦闘を始めようとしている」というわけです。

この本では、そういう情報資料をいかに集めて分類し分析するか。という点について書かれた結構珍しい本になっています。
まぁ、筆者も苦労したのか、現役時代の恨み節が所々に出てくるのですが、確かに情報資料から情報を導くのはし難しく、なおかつさらに難しいのは、それを最終的に取り扱う上司が無能だったりすると折角の情報も意味がないという・・・ある種の無常観に襲われるような出来事が多々あったようで、事例紹介でも日本政府、防衛庁、陸自の情報に関する無理解についてアレコレとあげつらっておりますが・・・結局は取り扱う人間の質についても触れていたりしています。そういった場合の情報提供の方法についてもチラリと書かれているぐらいですからね。

また、この本は今、アメリカ軍などで行われているIT技術によるRMA(軍事革命)を強烈に批判していたりもしています。
IT技術をベースとした「RMAの主張は戦略や戦術、各級指揮官の統率力、参謀の役割、効能を無視しており、現実から乖離しています。RMAは軍事科学技術の組織・活動への適用によって戦いの手段を強化するものです。RMAは軍事技術が戦略・戦術、統率の改革に従属するものであることを見失っています」(P2)
つまりIT技術によって各部隊での情報伝達はスムーズになるとしても、それが正しい情報のやり取りであるかが判らない(例えば、前線の部隊が遭遇した敵兵力に関して情報を上級部隊に要求したとして、そこから降りてくる情報がその部隊にとって有益な情報であるとは限らない・・・)として、筆者はフリードリヒ大王の格言など引用しつつ、RMAが適するものがあるものの、それはすべてにおいて有益なものであるとは限らない。ということを述べています。

今は議員になったある財務省官僚が防衛予算削減時にのたまいたようにRMAを導入したからといって、通常兵力が削減できるわけでもない(戦力増強要素ではあって、兵力削減要因にはならない)というわけですね。

他にもRMAと前後して発生したIT技術者が思い描く水平型組織に関して書かれている筆者の苦言はなるほどね、と頷かされるものがありましたが、これは興味がある方が実際に本を手にとって読んでもらえればいいかと。

というわけで、薄い本ではありますが情報はぎっしりと詰まった本です。軍ネタというわけではなく、末尾には昨今の対テロ戦争や世界の見方、考え方について筆者の纏めた要点などもあります。情報(Information&Intelligence)に感心のある方なら読んでみて損はない本だと思います。


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