補給戦―何が勝敗を決定するのか マーチン・ファン クレフェルト Martin van Creveld 佐藤 佐三郎 中央公論新社 2006-05 売り上げランキング : 1102 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「戦争のプロは兵站を語り、戦争の素人は戦略を語る」。よく言われる言葉です。
自分が十年ほど前、Niftyのとあるフォーラムで上の言葉を教えていただいたとき、とある発言者に「では、補給や兵站に関して知りたいのですが、何かオススメの本はありますか」と聞いたときに帰ってきた答えが今回紹介する本でした。
ただ、そのあとに続く言葉「ですがもう絶版なんです。古本屋でもあまり出回りません。自衛隊隊員か一部の軍事マニアでないと欲しがらないし、手放しませんしね」が印象的でした。まぁ、神保町界隈で足繁く通っていればなんとかなるそうですが、それにしたってプレミアついて2000円の本が四倍とかなっていたっていいますから、そりゃもうなんたることか。それが貴方、文庫で復刻(再刊)ですよ。知らせを聞いたときは快哉ものでした。
さて本の内容を説明しようとしますが、もうタイトルがそのものずばりです。補給。この極めて重要な割りに軽視されやすいこの軍事行動が、歴史上如何なる局面でどのような問題を引き起こしてきたか。について語られます。
この本のとんでもないところは、単なる印象論ではなく、その委細をこと細かく調べ上げている点でしょう。それは、従来のイメージ、例えば「補給を現地徴発に頼り、驚異的な進軍スピードと分進合撃で望む場所に兵力を集中させ、決戦を強いたナポレオン」、「ビスマルク時代のプロシアは、急速な鉄道発達の恩恵を受けて、対オーストリア、対フランス戦に勝利した」「WW1のプロシアの対フランス作戦計画、シェリーフェン・プランを骨抜きにしたのは小モルトケだった。まぁ、それでもシェリーフェン・プランは現実的ではなかったが」「ドイツは対ソ連侵攻は時期が悪すぎた」「ロンメルは偉大なる戦術家ではあった。兵站をまったく理解していないが」「ノルマンディ上陸作戦にあたって連合軍は潤沢な兵站を整えていた」などなど、印象論的なイメージを具体的な数字を挙げて打破し、新たな一面を我々に教えてくれます。
それは、ナポレオンは革新的とはいえないまでも当時として取れるかぎりの兵站活動を重視していたこと。十六世紀からWW1にいたるまで補給のネックは常に大量に消費される馬の馬匹であったこと。補給品の輸送を支えていたのは常に馬車であり、鉄道が有効利用されることは無かったこと。それはなんとWW2のドイツ軍であってもそうだったこと。ロンメルが破綻したのは無定見な攻撃姿勢であり、補給は安定していた(不安定だったのは距離が伸びたため)。ノルマンディで用意した連合軍の物資はあまり効果的に行き渡らなかったということ。
正直、WW2のドイツ軍の自動車化がさほど進んではおらず、その大部分が脆弱な鉄道と馬だったのには溜息が出ますが・・・そうだよな、ドイツ軍が強力だったのは極々一部なんだよな・・・。
そういう目から鱗の事例が紹介されます。しかし、しかしながらと付け加え、よく練られた兵站活動だけで戦争が出来るわけではない。ノルマンディから連合国軍側が勝利したのは、豊富な物量などではなく、それを無視して突進したパットンによってドイツ軍が打撃を受けたせいだと筆を進め、最終的な結論として、「人間の知性だけが戦争を遂行する道具ではない」と彼は書いています。意外な落とし処ではありますが、どうしてそのようなことになるのか、については興味のある方が読んでいただきたいと思います。
しかし、兵站、これほど想像のし難い分野も珍しいです。手元のBookShelfでは兵站とはこう定義づけられています。「軍隊の戦闘力を維持し、作戦を支援するための、国家から末端の兵士にいたるまでの補給、整備、回収、交通、衛生、建設、労務などのいっさいの機能の総称。」
つまり、兵站というのは単に物資の補給にとどまりませんよ。という意味です。そういう意味では、兵站という言葉はなんと便利で難しいのか。という気持ちになってきますね。
しかし、昔も今も用兵の根幹は変わりません。望むべき場所、必要な場所へ、必要な兵力を送り込める者が勝利を得るのです。それを支えるのが兵站担当の勤めというべきです。
しかし、兵站関係の書籍は本当にすくないですね。戦国時代や日清日露時代など兵站についての本があってもしかるべきなんですが・・・。
以前も紹介しましたが、湾岸戦争でこの兵站作業を取り仕切りった人物の本があります。
山・動く―湾岸戦争に学ぶ経営戦略 W.G. パゴニス William G. Pagonis 同文書院インターナショナル 1992-11 売り上げランキング : 288638 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
湾岸戦争で米軍の兵站部門を取り仕切ったパゴニス将軍の半生記+湾岸戦争で兵站部門がいかに事を成し遂げたか、という本です。絶版ですが、古本ではまだ手に入りやすく、Amazonのマーケットプレイスで購入するのもOKです。
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